読書日記

二十四節気

二十四節気という言葉がある。 1年を24等分して、それぞれの季節に名前が付けられている。 立春とか、啓蟄、大暑、といった今も使われている言葉もあるし、 清明や芒種など最近あまり聞かない名前もある。 河出書房新社から出ている「図説 浮世絵に見る日…

「火の鳥」の完結

先週末、図書館で本探しをしていたら、手塚治虫の火の鳥が並んでいた。 私は朝日ソノラマから発刊されていた単行本で「火の鳥」に親しんだ。 ポツリポツリと発刊される本を心待ちにして読んでいたが、 望郷篇あたりを最後に火の鳥とは縁が切れた。 手塚がそ…

横山秀夫 「64」

年末のベストセラー「64」を読んだ。 書けない時期が長く続いた横山の再起第一作である。 作家自身の苦悩と重なるように、重く苦しいストーリが 展開される。 三上義信が広報官を務めるD県県警ではキャリアを中心とする警務部と、 現場を預かる刑事部が鋭…

佐々木譲「ワシントン封印工作」

佐々木譲の本はどれをとってもはずれということが無い。 「ワシントン封印工作」は1997年に出た古い本だが、 期待に違わず、読ませる。 この二~三日は眠い目をこすりながら、おそくまで読みふけった。 舞台は日米開戦直前のワシントン。 中国アジアの権…

眠れぬ夜に

東京は今日も暑い。 夜は三方の窓を開けっ放しにして寝る。 2時か3時頃になると風が止まって寝苦しくなる。 無理に眠りに戻ろうとしてもたいていはうまくいかない。 そんなときは本を読む。 そんなわけで先週と今週は読書がおおいにはかどった。 今野敏 デッ…

真崎守の「わたしの手塚治虫体験(一)」

近所の図書館の入り口に「自由にお持ちください」のコーナがある。 ここに並んでいる本や雑誌のことを除籍資料というのだそうだ。 先日、そのコーナーで真崎守の「わたしの手塚治虫体験(一)」を入手した。 奥付を見ると1990年の出版とあるから20年前の本で…

植松三十里 「群青」

植松の本を始めて手にとった。 読み応え十分である。 本書タイトルの青は「青は藍より出でて藍よりも青し」の青を指している。 そして「群青」は、幕府海軍創設にかかわった俊英(「青」)たちを意味している。 この本には「日本海軍の礎を築いた男」という…

「いまひとたびの」  志水辰夫

「つばくろ越え」のあと、志水辰夫をまとめ読みしている。 この本も10年ぶりに棚から取り出した。 9つの話からなる中編小説集である。 いずれの話にも死の影がちらつく。 主人公がガンを病んでいるたり、会社の同期仲間の死、 恋人の死、母の死などが取り上…

島田荘司 「写楽 閉じた国の幻」

写楽探しを題材にした680ページを超える大冊小説である。 現在、写楽の正体を決定付けるような証拠はないが、太田南畝の著書など から阿波藩の能役者斎藤十郎兵衛説が有力と考えられている。 作者はこれを否定し、新説を唱える。 十郎兵衛の周りには絵を…

松井今朝子 「そろそろ旅に」

青年期から東海道中膝栗毛を出す直前までの十辺舎一九を描いている。 一九は洒脱な性格で、画才・文才にも恵まれている。 常に人に愛され、女に惚れられるが、一か所に落ち着くことができない。 故郷静岡を捨て、大阪町奉行の寵臣、材木問屋の婿、江戸では質…

「つばくろ越え」 志水辰夫

シミタツこと志水辰夫の「つばくろ越え」が読ませる。 「つばくろ越え」には飛脚問屋「蓬莱屋」シリーズとして、 表題作のほか、「出直し街道」、「長い道草」「彼岸の旅」の 4話が収められている。 荷物は普通、継ぎ飛脚(問屋間をリレー式に送る)によって…

久保俊治 「羆撃ち」

著者はアマチュアハンターの父に連れられて、小さいころから 小樽の近辺の親しみ、そのままプロのハンターの道に進む。 独り立ちして始めての狩り、羆((ひぐま)や鹿の追跡、狩りの良きパートナーとなる アイヌ犬「ふち」との出会い、アメリカでのプロハン…

高山秀子 「追憶の藤沢周平 - 留治さんとかたむちょ父ちゃん」

「かたむちょ」とは頑固、いじっぱりという山形弁である。 この本に登場する「かたむちょ」は著者の父上である高山正雄さんである。 藤沢より17歳ほど年上で、藤沢は「父ちゃん」と呼んで終生慕い続けた。 藤沢は15歳になって鶴岡中学夜間部に入学すると同時…

城山三郎 「そうか、もう君はいないのか」

ベストセラーでもあり、あちこちの書評にも取り上げられているので、 いまさらながらという気もするが、ひさかたぶりに心にしみる本だった。 経済小説の分野を開拓し、個人の尊厳を抑圧する日本の組織を描いてきた城山が、 一方で大変な愛妻家であったことは…

逢坂剛 「おれたちの街」

逢坂剛のお茶の水警察署シリーズ第4弾である。 舞台は神保町、小川町、猿楽町など、お茶の水の高台から坂下の神田一帯。 御茶ノ水警察署保安二係の斉木斉と梢田威は小学校からの幼馴染である。 さぼることばかり考えている腕力派の梢田と要領がよくて頭脳派…

ウィキペディア

最近ウィキペディアにお世話になる機会が増えている。 江戸や明治を背景にした小説を読むとき、人間関係や時代背景に分かりにくいことがある。 そんな時、手元のPCでウィキに行く。 先日も宮本昌孝の「北斗の銃弾」を読んでいたら、家斉の時代の老中として…

井上ひさし「ボローニャ紀行」

イタリアと井上ひさしの組み合わせに惹かれた。 いくぶん謎めいていて、どんな話になるかと期待がふくらむ。 ボローニュは井上が青春期に世話になったカトリック教会の本拠地で あり、尊敬する神父の出身地でもある。 憧れの地ボローニャで井上はボローニャ…

梶よう子 「一朝の夢」

一朝の夢 「一朝」は朝顔、「夢」は主人公中根興三郎の朝顔育成にかける夢である。 時代は幕末、興三郎は八丁堀同心。奉行所の名簿作成係りという地味な役職を努めている。 江戸は第二次朝顔ブームを迎えており、珍しい花は高値で取引されているが、興三郎は…

「デジカメに1000万画素はいらない」 たくきよしみつ

この本のタイトルはあまり本の中身とは関係ない。 確かに1000万画素の話も出てくるが、この本の大半は我々素人が、 デジカメでもう少しましな写真をとるにはどうしたらいいかを解説したものだ。 その中でも基本的な主張は次の「ガバサク流」である。 1)一…

吉田修一 「悪人」

吉田修一の「悪人」は420ページとかなりの分量があるが、一気に読み通した。 推理小説風の構成、人物描写、どれもが一級だ。 とりあえずの舞台は九州。 でもいまの日本ならどこにでもありそうな話。 つながりが希薄でバラバラな家族や友人、その孤独の中…

浅田次郎 中原の虹

浅田次郎の三部作、蒼穹の昴、珍妃の井戸、中原の虹をやっと読み終えた。 フーッ。 ホントに長かった。 主要な舞台は清朝の末期から中華民国の創成期まで。 「蒼穹の昴」は極貧の農村出身の宦官・李春雲と西太后が物語の中心にあり、 「珍妃の井戸」は光緒帝…

藤沢周平の地理感覚

藤沢周平「用心棒日月抄」の主人公の行動軌跡をGoogleMap上に 記録する話を先日書いた。 もちろんお遊びである。 その時できていなかった4話以降の行動も記録してみた。 (第8話は川崎、第10話は北国の旧藩まで足を延ばすので除外。 第4話は寿松院と吉…

用心棒 on Google map(公開バージョン)

Hさん 藤沢周平「用心棒日月抄」を久しぶりに読み返しました。 たぶん4回目か5回目になると思いますが、やっぱり面白い。 読むだけではもったいないので、青江又八郎の行動を Googleマップの上に記録してみようと思い立いたちました。 これを実行するには…

佐藤雅美という作家

おとといから佐藤雅美の「当たるも八卦の墨色占い」を読んでいる。 佐藤雅美にはいねむり紋蔵とか八州回り桑山十兵衛とか、縮尻鏡三郎など幕府の下級官僚を 書いた作品が多い。紋蔵はお書物同心例繰方、十兵衛は江戸の外、関東一円の取締同心、 鏡三郎は大番…

浅田次郎 霞町物語

浅田次郎の霞町物語を読み返した。 青山墓地の近くにあった霞町に住む写真屋家族の物語。 口の悪い写真職人の祖父、粋で華やかな祖母、 養子で山岳写真家の父、とりなし名人の明るい母、 そして落ちこぼれ高3の僕の恋と出会い、そして分かれ。 祖母の秘めら…

妖精が舞い下りる夜(アンジェリーナ 君が忘れた靴 その2)

図書館で小川洋子のエッセイ集「妖精が舞い下りる夜」(93年)をパラパラ見ていたら、 次のような文章があった。少し長いけど引用してみる。 「ふと流れてきた音楽(中略)の中に、以前読んだ小説のシーンがオーバーラップするということは、 その小説が確…

アンジェリーナ 君が忘れた靴

小川洋子の「アンジェリーナ 君が忘れた靴」を読んで、不思議な経験をした。 アンジェリーナは佐野元春の最初のヒット作。 車のエンジン音に似たビートに乗せて、孤独な若者、 愛を求めて夜の町をドライブする若者の姿をアップテンポに歌う。 若者の目の前に…

珍妃の井戸

「蒼究の昴」に続く浅田次郎の清朝ものの第2弾(1997年)。光緒帝の愛寵珍妃が義和団事変の中で井戸に投げ込まれて殺された事件の謎解き物語である。 事件の背景を知ると思しきNYタイムズ記者、元高級宦官、袁世凱、珍妃の姉などの証言を中心に話が進むが、…

古道具 中野商店

川上弘美 角川文庫 平成20年発行 川上弘美の本は「先生の鞄」に続いて、二冊目。 格別熱心な読者というわけではない。 「先生の鞄」も、娘が読み終わってそのあたりに ほってあったのを、ほかに読む本がないという休日に たまたま手に取ったという程度であ…

草原からの使者

ごぞんじ浅田次郎「沙高楼綺譚」の第二弾。 2005年の出版。 功なり名を遂げた各界の名士が南青山にある沙高楼に集い、 自らの不可思議な体験を交代で語るという形で話が進む。 浅田一流のしゃれたストーリテリングで、あきさせない。 「宰相の器」は時々…