梶よう子 「一朝の夢」

一朝の夢
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「一朝」は朝顔、「夢」は主人公中根興三郎の朝顔育成にかける夢である。
時代は幕末、興三郎は八丁堀同心。奉行所の名簿作成係りという地味な役職を努めている。
江戸は第二次朝顔ブームを迎えており、珍しい花は高値で取引されているが、興三郎は売り買いに関心は無い。幻の黄花を咲かせることを夢にしている。
興三郎の腕は、師匠の植木師、成田屋留次郎も認めるほどのもの。
この朝顔作りが縁となって、幼馴染の里恵と心をかよわすようになり、さらに杏葉館と称する武家(大名)、宗観という茶人、浪人三好貫一郎と交わるようになる。
この交わりはやがて幕末の大事件、桜田門外の変に続いていく。
実は宗観は井伊直弼、三好貫一郎は水戸浪人関鉄之助。
桜田門外の変において襲撃される側と襲撃する側として交錯することになる。

作者梶よう子は2作目(たぶん)のこの本で今年の松本清張賞を受賞した。
基本的には朝顔オタクの主人公の成長譚だが、朝顔に関するウンチクが結構面白い。
また安政の大獄という重いテーマを背景に取り上げ、実在の人物を小説に登場させているが、
テーマの重さにつぶされること無く、登場人物が生きた人間として描かれている。
ちょっとほめすぎかもしれないけど、お奨めです。

以下蛇足ながらwikiPediaで登場人物のことを調べてみた。
井伊直弼安政の大獄を主導した強権政治家のイメージが強いが、
 部屋住み時代には国学、和歌、鼓、禅をたしなみ、特に茶の湯では宗観という
 名前を持ち、著書まである。
 その多趣味ぶりから「チャカポン(茶・歌・鼓)」とあだ名された。
・植木師、成田屋留次郎と大名の鍋島直孝(杏葉館)はこの時代を代表する
 朝顔つくりの名人として知られている。
・関鉄之助は水戸改革派の中心人物高橋多一郎の指揮の下で、活動を行っていた。
 安政の大獄で弾圧を強める直弼に対抗するために、高橋は関を土佐藩長州藩
 派遣した。その後高橋らは井伊暗殺計画をまとめ、関鉄之助は実行体長として
 桜田門外で直弼を殺害した。