#読書

写真集 REQUIEM(レクイエム) 集英社(1997)

1950年代から1975年までの間に、ベトナム周辺の戦場で135名のカメラマンが死亡または行方不明となった。その中にはロバートキャパやラリーバローズのような高名なフォトジャーナリスト、沢田教一や嶋元啓三郎などの日本人カメラマンがいた。そし…

二十四節気

二十四節気という言葉がある。 1年を24等分して、それぞれの季節に名前が付けられている。 立春とか、啓蟄、大暑、といった今も使われている言葉もあるし、 清明や芒種など最近あまり聞かない名前もある。 河出書房新社から出ている「図説 浮世絵に見る日…

「火の鳥」の完結

先週末、図書館で本探しをしていたら、手塚治虫の火の鳥が並んでいた。 私は朝日ソノラマから発刊されていた単行本で「火の鳥」に親しんだ。 ポツリポツリと発刊される本を心待ちにして読んでいたが、 望郷篇あたりを最後に火の鳥とは縁が切れた。 手塚がそ…

横山秀夫 「64」

年末のベストセラー「64」を読んだ。 書けない時期が長く続いた横山の再起第一作である。 作家自身の苦悩と重なるように、重く苦しいストーリが 展開される。 三上義信が広報官を務めるD県県警ではキャリアを中心とする警務部と、 現場を預かる刑事部が鋭…

佐々木譲「ワシントン封印工作」

佐々木譲の本はどれをとってもはずれということが無い。 「ワシントン封印工作」は1997年に出た古い本だが、 期待に違わず、読ませる。 この二~三日は眠い目をこすりながら、おそくまで読みふけった。 舞台は日米開戦直前のワシントン。 中国アジアの権…

ダラエヌールの子供たち   伊藤和也写真集(2009 石風社)

アフガニスタンといえばタリバンと米軍の戦火に荒れ果てた 不毛の大地という先入観を持っていたが、 図書館で偶然手にとったこの写真集には緑と子供達の笑顔が溢れている。 (部分) 奥書きによると伊藤和也氏はプロの写真家ではない。 2003年からアフガ…

眠れぬ夜に

東京は今日も暑い。 夜は三方の窓を開けっ放しにして寝る。 2時か3時頃になると風が止まって寝苦しくなる。 無理に眠りに戻ろうとしてもたいていはうまくいかない。 そんなときは本を読む。 そんなわけで先週と今週は読書がおおいにはかどった。 今野敏 デッ…

本橋成一 「バオバブの記憶」(2009、平凡社)

本橋はかって「ナージャの村」でチェルノブイリの近郊の農村の暮らしを描いた。 静かな祈りに満ちた写真集だった。 「バオバブの記憶」ではアフリカ西端のセネガルの農村の暮らしを描いている。 村には樹齢500年とも1000年とも言われる巨木が並ぶ。 人々はバ…

「東京窓景」(中野正貴)

「東京窓景」という写真集がある。 東京タワー、雷門、渋谷ハチ公前交差点、ウォーターフロントなどの オブジェや街並みを窓越しに写し取った写真集である。 ありがちなテーマだけど、この写真集には単なる風景写真とは違う何かがある。 表紙に使われている…

真崎守の「わたしの手塚治虫体験(一)」

近所の図書館の入り口に「自由にお持ちください」のコーナがある。 ここに並んでいる本や雑誌のことを除籍資料というのだそうだ。 先日、そのコーナーで真崎守の「わたしの手塚治虫体験(一)」を入手した。 奥付を見ると1990年の出版とあるから20年前の本で…

植松三十里 「群青」

植松の本を始めて手にとった。 読み応え十分である。 本書タイトルの青は「青は藍より出でて藍よりも青し」の青を指している。 そして「群青」は、幕府海軍創設にかかわった俊英(「青」)たちを意味している。 この本には「日本海軍の礎を築いた男」という…

「いまひとたびの」  志水辰夫

「つばくろ越え」のあと、志水辰夫をまとめ読みしている。 この本も10年ぶりに棚から取り出した。 9つの話からなる中編小説集である。 いずれの話にも死の影がちらつく。 主人公がガンを病んでいるたり、会社の同期仲間の死、 恋人の死、母の死などが取り上…

島田荘司 「写楽 閉じた国の幻」

写楽探しを題材にした680ページを超える大冊小説である。 現在、写楽の正体を決定付けるような証拠はないが、太田南畝の著書など から阿波藩の能役者斎藤十郎兵衛説が有力と考えられている。 作者はこれを否定し、新説を唱える。 十郎兵衛の周りには絵を…

松井今朝子 「そろそろ旅に」

青年期から東海道中膝栗毛を出す直前までの十辺舎一九を描いている。 一九は洒脱な性格で、画才・文才にも恵まれている。 常に人に愛され、女に惚れられるが、一か所に落ち着くことができない。 故郷静岡を捨て、大阪町奉行の寵臣、材木問屋の婿、江戸では質…

「つばくろ越え」 志水辰夫

シミタツこと志水辰夫の「つばくろ越え」が読ませる。 「つばくろ越え」には飛脚問屋「蓬莱屋」シリーズとして、 表題作のほか、「出直し街道」、「長い道草」「彼岸の旅」の 4話が収められている。 荷物は普通、継ぎ飛脚(問屋間をリレー式に送る)によって…

古本市

池袋の西武デパート別館で開催中の古本市を覗いてきました。 お目当ては昭和以前の東京の写真集です。 10何万冊の古本がジャンル分けされずに並んでいますので、 探すのが大変。 その中からこんな本をゲットしてきました。 昭和58年の刊行ですから、そんなに…

植田正治「僕のアルバム」

一人の写真家が妻を娶り、妻に先立たれる50年間を記録した写真集である。 舞台は鳥取。 写真家は境港の写真館を拠点に新しい写真の世界を切り開き、 妻の写真も撮り続ける。 19歳で嫁いできた妻は少女の面影を残している。 4人の子供を産んだ後も、夫の…

久保俊治 「羆撃ち」

著者はアマチュアハンターの父に連れられて、小さいころから 小樽の近辺の親しみ、そのままプロのハンターの道に進む。 独り立ちして始めての狩り、羆((ひぐま)や鹿の追跡、狩りの良きパートナーとなる アイヌ犬「ふち」との出会い、アメリカでのプロハン…

日本風景写真協会 「残したい日本の風景3 駅舎」

鉄ちゃんでもないし、特に駅舎に関心があるわけでもありませんが、 この写真集にはユニークな駅舎が取り上げられていて、ページを めくるのが楽しい。 南は指宿枕崎線の西大山駅から、北の最果て稚内駅まで、全国80余の 駅舎が取り上げられています。 適当…

荒木経惟 「幸福写真」

3年前に出版された写真集。 まずはアラーキー語録から 「イイな、と思う写真には、やっぱりお互いに何かを感じあっている ところがちゃんと写っている。 親子、家族、恋人、夫婦、お互いの愛しい気持ち、仕種が写っている。」 この写真集に登場する人たちは…

高山秀子 「追憶の藤沢周平 - 留治さんとかたむちょ父ちゃん」

「かたむちょ」とは頑固、いじっぱりという山形弁である。 この本に登場する「かたむちょ」は著者の父上である高山正雄さんである。 藤沢より17歳ほど年上で、藤沢は「父ちゃん」と呼んで終生慕い続けた。 藤沢は15歳になって鶴岡中学夜間部に入学すると同時…

城山三郎 「そうか、もう君はいないのか」

ベストセラーでもあり、あちこちの書評にも取り上げられているので、 いまさらながらという気もするが、ひさかたぶりに心にしみる本だった。 経済小説の分野を開拓し、個人の尊厳を抑圧する日本の組織を描いてきた城山が、 一方で大変な愛妻家であったことは…

「里山を歩こう」 今森光彦

岩波ジュニア文庫から出ている写真家、今森の「カラー版 里山を歩こう」を読みました。 舞台は琵琶湖西岸仰木地区、今森のホームグラウンドです。 棚田の四季、雑木林、そこに生きる人々の暮らし、様々な生き物の姿が豊かに 表現されています。 それにしても…

逢坂剛 「おれたちの街」

逢坂剛のお茶の水警察署シリーズ第4弾である。 舞台は神保町、小川町、猿楽町など、お茶の水の高台から坂下の神田一帯。 御茶ノ水警察署保安二係の斉木斉と梢田威は小学校からの幼馴染である。 さぼることばかり考えている腕力派の梢田と要領がよくて頭脳派…

ウィキペディア

最近ウィキペディアにお世話になる機会が増えている。 江戸や明治を背景にした小説を読むとき、人間関係や時代背景に分かりにくいことがある。 そんな時、手元のPCでウィキに行く。 先日も宮本昌孝の「北斗の銃弾」を読んでいたら、家斉の時代の老中として…

井上ひさし「ボローニャ紀行」

イタリアと井上ひさしの組み合わせに惹かれた。 いくぶん謎めいていて、どんな話になるかと期待がふくらむ。 ボローニュは井上が青春期に世話になったカトリック教会の本拠地で あり、尊敬する神父の出身地でもある。 憧れの地ボローニャで井上はボローニャ…

梶よう子 「一朝の夢」

一朝の夢 「一朝」は朝顔、「夢」は主人公中根興三郎の朝顔育成にかける夢である。 時代は幕末、興三郎は八丁堀同心。奉行所の名簿作成係りという地味な役職を努めている。 江戸は第二次朝顔ブームを迎えており、珍しい花は高値で取引されているが、興三郎は…

今森光彦 「湖辺(みずべ) 生命の水系」

琵琶湖湖畔の里山をホームグラウンドにして、そこに生きる生き物を 撮ってきた今村光彦が琵琶湖そのものに取り組んだ写真集である(2004)。 冬枯れの湖畔、夜明け前の静謐な湖面、葭原に集まるオナガガモやアオサギ、 子供を守るように翼を広げるトビ、蘆原を…

「デジカメに1000万画素はいらない」 たくきよしみつ

この本のタイトルはあまり本の中身とは関係ない。 確かに1000万画素の話も出てくるが、この本の大半は我々素人が、 デジカメでもう少しましな写真をとるにはどうしたらいいかを解説したものだ。 その中でも基本的な主張は次の「ガバサク流」である。 1)一…

吉田修一 「悪人」

吉田修一の「悪人」は420ページとかなりの分量があるが、一気に読み通した。 推理小説風の構成、人物描写、どれもが一級だ。 とりあえずの舞台は九州。 でもいまの日本ならどこにでもありそうな話。 つながりが希薄でバラバラな家族や友人、その孤独の中…