島田荘司 「写楽 閉じた国の幻」

 
写楽探しを題材にした680ページを超える大冊小説である。
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現在、写楽の正体を決定付けるような証拠はないが、太田南畝の著書など
から阿波藩の能役者斎藤十郎兵衛説が有力と考えられている。
作者はこれを否定し、新説を唱える。

十郎兵衛の周りには絵を描いた痕跡が全くない、というのが否定の大きなポイント
になっている。
したがって、新しい写楽候補には絵を書いた証拠・痕跡を示さなければならない。

著者も写楽の肉筆画らしい資料が出てきた所から話を始める。
絵の中の文字を手がかりに正体が絞り込まれていく。
だが途中でその資料は怪しい資料ということになり、写楽の活動期間に
焦点を当てて、新写楽説を作り上げていく。

この新候補が絵を描いた証拠をどうやって示すのだろうと期待して読み進めた。
ところがその期待は見事に裏切られる。
最後までその新候補が絵を描いていたという痕跡は示されない。
これでは斎藤十郎兵衛説の否定はなんだったのか。

所詮小説ではあるのだが、こういう題材を取り上げる以上、嘘でもいいから
納得性のあるストーリーを展開して欲しいものだ。
ましてや著者はロジックの納得性が命の推理小説の世界の人なのだから。

ついでにもう一つ文句を言うと、この本の最大の欠陥は
同じ話題を似た表現のままダラダラ繰り返すことだ。
オリジナルは月刊誌に連載されたということだから、単行本にする段階で重複を
省き整理統合するのは作家として最低限の義務だろう。

著者は後書きの中で、紙幅の制限にため語り尽くせなかったと書いているが、
680ページもあるのだよ。
冗長な部分を削れば十分書きこめたはずだ。

よって、この本はお勧めしない。
時間の無駄である。