写真集三昧

写真集 REQUIEM(レクイエム) 集英社(1997)

1950年代から1975年までの間に、ベトナム周辺の戦場で135名のカメラマンが死亡または行方不明となった。その中にはロバートキャパやラリーバローズのような高名なフォトジャーナリスト、沢田教一や嶋元啓三郎などの日本人カメラマンがいた。そし…

佐藤博写真集 「光と影の出逢い」

先日石神井図書館の写真集コーナーで、 本をパラパラ開いていたら、見覚えのある風景が 目に飛び込んできた。 二つとも石神井公園三宝寺池の 冬の朝の風景である。 奥書きを見ると、著者は1927年生まれ、1950年代から写真を始め、 定年後に本格的に写真に打…

TOKYO 異形 (その2)

棚に並んだたくさんのワイングラス、 なぜかグラスの足が右や左にフニャリと曲がっている そして画面の下の方には小さな人の姿… この写真は先日も取り上げた「TOKYO異形」の中の写真(部分)である。 ワイングラスのように見えるのは、建築中のビルの工事用…

水の都  -   写真集「TOKYO異形」より

イタリアかフランスの河口都市のようにも見えるこの写真、 写真集「TOKYO異形」(東京新聞写真部)の中で見つけた。 東京の北東、中川の七曲がりの風景である。 荒川と新中川を結ぶ旧中川の川筋にある。 蛇行する川に抱かれるように寄り沿うように広がる街並…

「廃墟チェルノブイリ」 中筋純

鉄条網の向こうに立ち並ぶアパート。 晩秋の紅葉に包まれ静かに眠る町。 そしてアパートの向こうにチェルノブイリ原発が見える。 右の煙突の下が「石棺」と呼ばれる4号炉。 事故から20年経った2007年。 この町には人は住んでいない。 中筋は後書きで…

物江章 「悠久の稜線 飯豊連峰写真集」

大学を出て2年目か3年目の夏に友人に 誘われてこの山に登ったことがある。 もう記憶も定かではないが、福島側から入った。 どっしりとした大きな山で、森林の中をひたすら登った。 へとへとになりながら稜線に出ると、やわらかな 曲線を持つ山並みがずっと…

ダラエヌールの子供たち   伊藤和也写真集(2009 石風社)

アフガニスタンといえばタリバンと米軍の戦火に荒れ果てた 不毛の大地という先入観を持っていたが、 図書館で偶然手にとったこの写真集には緑と子供達の笑顔が溢れている。 (部分) 奥書きによると伊藤和也氏はプロの写真家ではない。 2003年からアフガ…

大木茂 「汽罐車-よみがえる鉄路の記憶1963-72」

私には鉄っちゃん趣味はないのだが、この写真集は素晴らしい。 機関車ではなく汽罐車。 汽罐すなわちボイラに車輪を付けたもの。 この写真集には汽罐車が吐き出す煙とスチームが溢れ、 見る者を圧倒する。 3月に出たばかりの写真集なので、転載はよくないの…

南良和 井出孫六 「秩父」(1978)

この本が出版された1978年というと、日本経済が第一次オイルショックから 立ち直り、再び成長期に入っていた頃である。 成田空港が開港し、サザンがデビューし、サンシャインビルがオープンした。 この写真集にはそんな時代の少し前、おそらく1960年代か…

本橋成一 「バオバブの記憶」(2009、平凡社)

本橋はかって「ナージャの村」でチェルノブイリの近郊の農村の暮らしを描いた。 静かな祈りに満ちた写真集だった。 「バオバブの記憶」ではアフリカ西端のセネガルの農村の暮らしを描いている。 村には樹齢500年とも1000年とも言われる巨木が並ぶ。 人々はバ…

「東京窓景」(中野正貴)

「東京窓景」という写真集がある。 東京タワー、雷門、渋谷ハチ公前交差点、ウォーターフロントなどの オブジェや街並みを窓越しに写し取った写真集である。 ありがちなテーマだけど、この写真集には単なる風景写真とは違う何かがある。 表紙に使われている…

水口博也 「巨鯨」

空中にジャンプする巨体、跳ね上がるしぶき、 ご存知水口博也の初期の作品集である。 (いずれも部分) いまさらながらではあるが、美しい写真集である。 近くの図書館で借りだし、この夏休みの間、繰り返し たのしませてもらった。 なお水口博也の最新の活…

お彼岸の墓参り

今日は朝から雨が降っている。 長女から、子供連れでお彼岸の墓参りに行っても大丈夫かと 電話があった。 放射性物質が付くのを避けるため幼児や妊婦は雨に濡れないように、と テレビで言っていたらしい。 聞かれても分かる訳はない。 原発からはずっと離れ…

小川直樹 「White Sands」 講談社(1996)

ある日少年は雑誌で白い砂漠を見た。 そしてカメラを抱えてアメリカに渡り、大陸横断バスに乗った。 ニューメキシコにある砂漠「White Sands」に到着し、 ひたすら砂漠の写真を撮った。 灼熱、強風、雷雨の中で、そして夜も昼もその白い砂を撮った。 白い砂…

Magic Hour

品川のキャノンギャラリーで吉村和敏の写真展「Magic Hour」が 開催されている。 MagicHourとは夕日が沈んだ直後から、空に一番星が現れるまでの 時間のことを言うのだそうだ。 その頃、西の方角は茜色に包まれる。 暮れなずむ草原に一軒の家。 草原の向こう…

「定本 木村伊兵衛」(その3) ‐再び本郷森川町

前回と同じ本郷森川町(現本郷6丁目)の写真である。 手前には4人の子供がいる。 一人が仰向けに倒れ、こっちを向いた子供は縄を握っている。 綱引きでもしているうちに一人が転んだのだろう。 大人はそんな子供たちに全く目もくれないし、子供達も勝手に 遊…

「定本 木村伊兵衛」 (その1)

顰蹙をかってしまいそうだが、正月の酔眼でパラパラと木村の写真集を 眺めている。 その中から1枚。 場所は湯島天神の男坂。 坂下には古い木造家屋が並んでいる。 1953年の撮影とある。 このあたりは戦災からまぬがれたようだ。 湯島は先月、広重ツアーでも…

秩父の秋(2)

西善寺のあと、荒川に沿って遡ってみました。 三峰口をすぎ、大滝温泉の少し手前がちょうど見頃。 まさに錦秋。 谷川にかかる木々も見事なグラデーションです。 もう少し足を延ばせば中津川渓谷ですが、渓谷に日がとどかなくなってきました。 今年はこの紅葉…

栗林慧 「The Moment」(1991年出版)

皆さん、動物や植物のこんな姿、見たことがありますか? セミがオシッコを発射する瞬間 鳳仙花がはじる一瞬 空に飛び立ったバッタ 知識としては知っているけれど、一度も見たことのない姿の数々、 我々の目ではとらえきれない一瞬の姿を、あざやかに写し撮っ…

岩合光昭 「サバンナからの手紙」

この写真集には1982年から2年間、タンザニアのセレンゲティ国立公園で 撮った動物の写真が集められている。 写真集の最初の写真はライオンがヌーに襲いかかる直前の写真である。 全力で追いすがるライオンの迫力と、最後に振り返って懸命の反撃の姿勢を…

吉村和敏「ローレンシャンの秋‐カナダ・ケベックの森が燃えるとき」

バンクーバで開かれているオリンピックも中盤に差し掛かり、 盛り上がってきています。 今日の男子フィギアでは高橋選手が銅メダルを取りましたね。 そのカナダを舞台に活躍している写真家、吉村和敏さんの「ローレンシャンの秋」は とても美しい写真集です…

桜庭文男 「茅の家  雪国の古民家」

今年最初の写真集紹介は、秋田在住の写真家、桜庭文男さんが 30年にわたって撮りためた茅葺の家の写真集である。 (秋田、部分) 表紙の写真も含め、雪の季節の写真が多く、美しい。 (山形、部分、縦線は頁折り目) 次の写真には、30年の民家撮影の最後…

森田敏隆 「あさのいろ」

棚田や一本桜の写真で名高い森田敏隆さんの作品。 北は宗谷岬から南の桜島まで、日本全国の「あさのいろ」85枚が おさめられている。 どの一枚も素晴らしい写真だが、特に大雪山銀泉台で撮った 次の写真が好きだ。 薄紅色に染まった霧の中から原生林が浮かび…

植田正治「僕のアルバム」

一人の写真家が妻を娶り、妻に先立たれる50年間を記録した写真集である。 舞台は鳥取。 写真家は境港の写真館を拠点に新しい写真の世界を切り開き、 妻の写真も撮り続ける。 19歳で嫁いできた妻は少女の面影を残している。 4人の子供を産んだ後も、夫の…

大山行男 「宇宙の富士山」

明日の夜半、宇宙から降ってくる流星群が見られるという。 この写真集の中にある夜の富士も、 我々の住む世界が宇宙とつながっていることを はっきりと感じさせてくれる。 満天の星空に浮かぶ富士、荒々しい山頂にさしかかる月、 新月の闇に聳え立つ富士、雲…

本橋成一 「ナージャの村」

この写真集はチェルノブイリの原発事故から5年たった 1992年頃のロシアの寒村、ドゥヂチ村の記録である。 ナージャの住むドゥヂチ村はチェルノブイリの北、160kmにある。 村にはかって300人の人々が暮らしていたが、いまは15人。 ナージャは7人家族の末…

荒木経惟 「東京慕情」

東京には図書館がたくさんある。 一つの図書館にある写真集の数は限られているが、 自分の住んでいる地区の図書館だけでなく、隣の区や市の図書館も 利用できるので、いろいろな写真集に接することができる。 そんな図書館めぐりで見つけた大好きな写真集が…

新井靖雄 「奥秩父 ― ダムで移転した人々」

あたたかく、おだやかで、哀切きわまりない写真集だ。 かって奥秩父の中津渓谷に滝沢という集落があった。 険しい渓谷の中腹に100軒ほどの家がへばり付くように散在している。 そこにダム計画が持ち上がり、やがて湖底に沈んでいく。 この写真集は滝沢の…

日本風景写真協会 「残したい日本の風景3 駅舎」

鉄ちゃんでもないし、特に駅舎に関心があるわけでもありませんが、 この写真集にはユニークな駅舎が取り上げられていて、ページを めくるのが楽しい。 南は指宿枕崎線の西大山駅から、北の最果て稚内駅まで、全国80余の 駅舎が取り上げられています。 適当…

荒木経惟 「幸福写真」

3年前に出版された写真集。 まずはアラーキー語録から 「イイな、と思う写真には、やっぱりお互いに何かを感じあっている ところがちゃんと写っている。 親子、家族、恋人、夫婦、お互いの愛しい気持ち、仕種が写っている。」 この写真集に登場する人たちは…