「東京窓景」(中野正貴)

 

「東京窓景」という写真集がある。
東京タワー、雷門、渋谷ハチ公前交差点、ウォーターフロントなどの
オブジェや街並みを窓越しに写し取った写真集である。

ありがちなテーマだけど、この写真集には単なる風景写真とは違う何かがある。


表紙に使われている写真を見てみよう。

イメージ 1

言わずと知れた隅田川河畔、アサヒビールの屋上オブジェである。
娘たちが小さい頃、○ンコ雲といって笑い転げていたあのオブジェである。


写真の手前に布団が見える。
部屋は和室だ。

  マンションの一室か、それとビルの管理室か。
  どんな人が暮らしているのだろう。

  人工的なオブジェとリアルな生活が同居する空間。
  現実歪曲空間。

  外を見るたびにこのオブジェが見えるなんて、うっとうしくはないか。
  毎日見ていると気にならなくなるのだろうか。

この写真を見ていると、いろんな想いが次々に湧いてくる。
そんな力をもった写真なのだ。


東京の街並みが時には異国の風景のように、またあるときには非現実的な風景として
次々に現れる。
この写真集にはそんな面白さにあふれた写真集だ。


この写真集は2005年の木村伊兵衛写真賞を受賞しているそうだ。
どのような写真集がこの賞にふさわしいのかは分からないが、
不思議な魅力をたたえた写真集であることは間違いない。