南良和 井出孫六 「秩父」(1978)

 
この本が出版された1978年というと、日本経済が第一次オイルショックから
立ち直り、再び成長期に入っていた頃である。
成田空港が開港し、サザンがデビューし、サンシャインビルがオープンした。

この写真集にはそんな時代の少し前、おそらく1960年代から70年代の秩父
生活が記録されている。


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立つのもおぼつかないような急な傾斜地に開かれた畑、養蚕、いわだけ採り、修験者、
祭り、地芝居、屋根葺き、セコ道、豆腐作り、囲炉裏、嫁取り、そして生命の誕生と死、・・・

人々の暮らしの中に自動車は入ってきてはいるが、それでも人々は基本的に
昔から引き継がれてきた生活のパターンとリズムで暮らしている。
その姿は、われわれに知っている高度成長期の日本の姿とは全く異なるものだ。

井出孫六の文も読ませる。
井出は南の写真と関係なく、「秩父事件」に関して語る。
秩父と山ひとつ隔てた佐久出身の井出がどのようにして「秩父事件」に
係わりをもつようになったか、秩父の暮らしから「秩父事件」がどのように
生まれ、どのように語り継がれてきたかを、瑞々しい筆致で綴る。

読み進むうちに、全く無関係のように思われた二つの作品が共鳴し合い、
秩父という空間の奥深さ、その中に息づく歴史の豊かさがより強く印象に残る。

いまこの地はどうなっているだろうか。
そして人々の生活はどうなっているだろう。

(注)古くてかさばる本なので、図書館でないとなかなか読むことは
   難しいと思います。
   私は石神井図書館で借りだしました。