「定本 木村伊兵衛」(その3) ‐再び本郷森川町

 
前回と同じ本郷森川町(現本郷6丁目)の写真である。

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手前には4人の子供がいる。
一人が仰向けに倒れ、こっちを向いた子供は縄を握っている。
綱引きでもしているうちに一人が転んだのだろう。

大人はそんな子供たちに全く目もくれないし、子供達も勝手に
遊んでいる。
同じ空間にいる大人と子供の世界がくっきり分かれている。
たしかにそうだった。
大人はよほどのことが無い限り子供達に口出しをしないし、
子供達も大人の空間の隣に自分たちの遊びの世界を作る。


大人と子どもの境界を黒コートの男とエプロンおばさんが歩いている。

黒コートの男の視線は大人の世界を向き、エプロンおばさんは
背中の赤ん坊の視線を通して子供の世界に結びついている。
そう、木村はこの二人を写し撮ることによって、
大人と子供の世界が完全に分離しているのではなく、ゆるやかに
結びついていることまで、表現したのだ。


たとえ黒コートの男がモデルだったとしても、この写真が時代の
空気を切り取った素晴らしいスナップ写真であることには間違いない。