「定本 木村伊兵衛」 (その2)  本郷森川町

 
今回の写真は1953年に撮られた本郷森川町(現本郷6丁目)である。

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交番では警官と植木職人風の男が通りのほうを見ている。
エプロン姿のおばさんの頭に重なって分かりにくいが、
視線の先には洋装の若い女性の姿がある。
若い職人の顔には、世間的に有名な人物(女優?)を見かけたという
表情が浮かんでいる。


その交番の様子を振り返りながら歩いてくる老年の男性。
男の姿はごく自然で、たまたまスナップ写真の中に写りこんだように見えるが、
前回とりあげた湯島天神男坂を下っていく男の姿と雰囲気が似ている。

黒いコート、帽子、手には傘の代わりにステッキ、そしてカバン。

そう、この二枚の写真はスナップ写真のように見えて、実はモデルを使った
写真ではないか。
木村伊兵衛と言えばスナップ写真の名手、本郷森川町はスナップ写真の
代表作の一つと言われているが、実は画面構成を綿密に計算した
写真なのではないか。

これら写真はいずれもアサヒグラフに「東京のまち」として連載された。
そしてこの連載からもう一枚。
「川開き」という写真である。

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花火の季節にコート姿。
かたわらの女性はご丁寧に傘までさしている。
ここまでくればもう明らかだろう。
この一連の写真はスナップ写真のように見えて、そうではないのだ。

木村は写真の中に何故コート姿の男を登場させたのだろう。
コートは何を象徴しているのだろう。
ネットで調べてみたが、残念ながらその当時のいきさつを書いたものは
見つからなかった。

(次回に続く)