松井今朝子 「そろそろ旅に」

 
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青年期から東海道中膝栗毛を出す直前までの十辺舎一九を描いている。

一九は洒脱な性格で、画才・文才にも恵まれている。
常に人に愛され、女に惚れられるが、一か所に落ち着くことができない。
故郷静岡を捨て、大阪町奉行の寵臣、材木問屋の婿、江戸では質屋の婿の身分を
捨てる。

デラシネのようにさ迷う一九。
そして一九に寄りそう一つの影。
暮らしが安定してくると、一九はその影に「そろそろ旅に」でようかと語りかける。
洒脱な一九の奥に潜む闇。
陰の正体は何か。

一九の周りには蔦屋重三郎山東京伝、馬琴、式亭三馬といったおなじみの
人々が登場する。
作者はこれらの人々の人間関係を丁寧に描いている。
戯作の世界に大きくそびえる京伝、それを乗り越えようともがく一九や馬琴。
追い上げる三馬。

江戸文化に関する豊かな知識と描写力によって、江戸文化の中心世界が
活き活きと描かれる。
面白かった。