井上ひさし「ボローニャ紀行」

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イタリアと井上ひさしの組み合わせに惹かれた。
いくぶん謎めいていて、どんな話になるかと期待がふくらむ。

ボローニュは井上が青春期に世話になったカトリック教会の本拠地で
あり、尊敬する神父の出身地でもある。
憧れの地ボローニャで井上はボローニャ方式という新しいコミュニティに出会う。

ボローニャ方式というのは「国よりも都市」というイタリアの伝統と、
戦後の町の再生という背景の中から生まれてきた市民共同体のようなもの。
市民が日常生活の中で町を支え、職人活動の延長線上に新しい企業が
育っていく様子を、市民派井上ひさしが共感をこめて描く。
もちろんその背景には高齢化とグローバル化の中で立ちすくむ、
日本の社会を立て直すヒントがここにあるという想いがある。

ボローニャは商品の自動包装機械の分野で、世界トップの企業が
いくつかあるのだそうだ。
たとえば日本が世界に誇るコンドームの包装機械もボローニャ製。

面白いのは企業のスピンアウトの方法。
包装対象が異なれば、技術を持ち出して新しい企業を作ることが
認められており、これがボローニャ企業群の活力の源泉になっている。
日本だったらすぐ訴訟の対象になり、起業の目がつぶされてしまいそう。
従来のやりかた、考えにとらわれず、見方を変えれば新しい世界が開ける
ということなんだなと思います。

井上ひさしにしては短くて、読みやすい。
サッカー、食べ物、大学(ボローニャ大学は世界で最も古い大学の一つ)、
福祉、観光と話題も豊富。
もちろんユーモアとあたたかさもいっぱい。
お勧めです。