久保俊治 「羆撃ち」

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著者はアマチュアハンターの父に連れられて、小さいころから
小樽の近辺の親しみ、そのままプロのハンターの道に進む。

独り立ちして始めての狩り、羆((ひぐま)や鹿の追跡、狩りの良きパートナーとなる
アイヌ犬「ふち」との出会い、アメリカでのプロハンター訓練、ふちとの
死別が、緊張感のある文体で綴られる。

北海道の山中にキャンプを張り、冬は鹿、雪解けになると羆を追う。
かすかな痕跡を何日もたどり、やがてライフルのスコープの中に獲物の姿をとらえる。
描写はリアルで息遣いが耳に迫ってくる。

著者の生年から換算すると、この本に描かれているのは1960年代から1980年頃の話と
思われる。ちょうど日本が高度成長を謳歌していた時代である。
この本に描かれているのは、それとは全く無縁の人生である。
ただひたすらに狩りに没頭し、獲物と対峙する。

狩りを生業とする人生は一昔前の東北のまたぎの中にもあったが、
著者の生き方はそれとも少し違う。
生業と言うより、獲物と対峙する瞬間を追い求めて生きる、それが困難であればあるほど、
燃える、といったスポーツハンターに近い生き様である。

このような人生がこの時代の日本の中にあったとは正直驚きである。