吉田修一 「悪人」

吉田修一の「悪人」は420ページとかなりの分量があるが、一気に読み通した。
推理小説風の構成、人物描写、どれもが一級だ。
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とりあえずの舞台は九州。
でもいまの日本ならどこにでもありそうな話。
つながりが希薄でバラバラな家族や友人、その孤独の中で他者との
あたらしい接点を求めてネットの中を漂う若者。

祐一と光代も出会い系サイトで知り合い、孤独を埋める相手として
すぐに惹かれあう。
しかし祐一はやはり出会い系サイトで知り合った佳乃を、思わぬ
成り行きで殺してしまっている。
まもなく警察の手は祐一の周辺にも伸びてきて、二人は逃避行を始める。
やがてはつかまる事を覚悟しつつ、最後の日々を過ごす二人。

互いを思う気持ちは、本物の愛か、極限状態での錯覚か。
佳乃を殺し、光代を連れまわしているように見える祐一は悪人か。
二人が最後に逃げ込む灯台の場面は、歌舞伎の道行きや心中物の場面と
重なって見えた。