佐藤雅美という作家

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おとといから佐藤雅美の「当たるも八卦の墨色占い」を読んでいる。

佐藤雅美にはいねむり紋蔵とか八州回り桑山十兵衛とか、縮尻鏡三郎など幕府の下級官僚を
書いた作品が多い。紋蔵はお書物同心例繰方、十兵衛は江戸の外、関東一円の取締同心、
鏡三郎は大番屋(容疑者を一時収容する留置場のようなもの)の元締め。

江戸庶民の周りで起こっている小事件を扱う。
目のさめるような推理があるわけでもない。
もんじ屋でしし鍋をつつきながら、同僚や手先とああでもないこうでもないと、
話しているうちに、まてよとかそういえばという展開になる。

真相を隠しているうそや見得、男女のもつれ、欲といったものを取り上げる。
事件そのものは単なるそえもののようで、最後の1-2ページでばたばたと
真相を解説するという終わり方も多い。
通常こういった尻切れトンボ的な終わり方は、文章の欠点という印象を
与えるものだけど、この作家の場合はあまり気にならない。

佐藤雅美の特質、美点はたぶん、語り口にある。
ああでもないこうでもないと考えている場面の語り口、間(ま)になんともいえぬ風情がある。
落語のような語り口といったらいいだろうか。

うん、たぶん佐藤雅美は文章による落語家を目指しているのだ。
くせになり、次の本が待ち遠しくなる。