珍妃の井戸

「蒼究の昴」に続く浅田次郎清朝ものの第2弾(1997年)。光緒帝の愛寵珍妃が義和団事変の中で井戸に投げ込まれて殺された事件の謎解き物語である。
事件の背景を知ると思しきNYタイムズ記者、元高級宦官、袁世凱、珍妃の姉などの証言を中心に話が進むが、「藪の中」と同様、証言者によって言うことが全く異なる。最後に幽閉されていささか正気を失った光緒帝が登場し、義和団事件に大軍を派遣した英独露日の関わりを暴露するが、それすら真相かどうか定かではない。
「蒼究の昴」では清朝末期の北京において数奇な運命をたどる若者の姿をあざやかに描いて見せた作者は、この続編では政治に翻弄されながらも最後まで貫かれる光緒帝と珍妃の愛を描いている。
謎解きというスタイルをとることにより、二人の愛を多面的に描こうとしており、浅田一流のストーリテリングで読者をぐいぐい引き込む。
しかしながらこの謎解きというスタイルが成功しているかどうかは少し怪しい。
なぜ登場人物が異なる人物を真犯人と言うのか、その動機が最後になっても分からない。その意味でミステリとしては不完全なのだ。
緻密な構成を得意とする浅田がどうしてこのような「欠陥」を放置したのかよく分からない。それとも私の読み込みが浅いのだろうか。