江戸名所百景 愛宕山

 

名所江戸百景の中でも第21景「芝愛宕山」は、よく知られた絵である。

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この絵に描かれている人物は不思議な格好をしている。
左右の手には大きなしゃもじと太いすりこぎ。
頭をごちゃごちゃと飾りたてている。

先日の名所江戸百景ツァーはこの愛宕山を含むコースを回った。
ガイドの説明によると、絵の主は毘沙門の使いで、近くの寺で行われた
正月行事の強飯式から帰ってくる様子を描いている。
頭にザルをかぶり、串を立て、御幣をなびかせている。
そして額の橙、顔の左右に垂らしている昆布などは正月の飾り物である。

両手の大シャモジや大すりこぎは、「新参は9杯、古参は7杯」と
飯を強いるための道具。
強飯式は一年を笑って明るくスタートするための行事であり、
その使者もしゃれっけたっぷりに着飾っているのだった。

広重にしてはめずらしく、ユーモラスな題材を取り上げているが、
絵の主の表情は硬い。

これは愛宕山の階段を見れば、すぐ理由が分かる。

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御覧のような急な坂(男坂)を重いシャモジとすりこぎを持って登るのだから
息もきれるだろう。
男はそれを面に出すまいと、ぐっとこらえているように見える。
それがなんともおかしい。

背景の江戸の町にはタコがあがり、穏やかに晴れ渡っている。
のびやかで華やいだ江戸の正月を感じさせてくれる、いい絵だ。


広重は百景の中でもう一枚、愛宕山の絵を書いている。
(112景「愛宕下藪小路」)

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雪の愛宕下。
雪がしんしんと降っている。

画面奥の木の繁っているあたりが愛宕山
雪の重みで竹がしなり、掘割にさしかかっている。


場所は愛宕山の前の道を少し北(東京駅方向)に歩いたあたり。
今はビルだらけである。

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112景の掘割(桜川)はたぶん歩道の下だろう。