ヒッツミとホウトウ



小さい頃、母は時々ヒッツミを作ってくれた。
小麦粉を水で練って、寝かせる。
十分寝かせた塊は薄く伸びる。
親指のつけ根と4本の指ではさむように引っ張る。薄く延びたら、そのまま千切って沸騰した鍋の中に投げ込む。

母の故郷である盛岡の郷土料理である。
ヒッツミはつるりと滑らかで、里芋やにんじん、鳥肉と一緒に食べると、何杯でも食べられる。
ヒッツミは薄いほど美味い。

残念ながらこの料理は家内に伝承されていない。
代わりに我が家で食べるのがホウトウである。
出来合いのホウトウを買ってきて、味噌味の煮込みうどん風に仕立てる。
カボチャを入れて、すこし煮崩れするくらいに煮込むと、とろりと甘い汁とつるりとしたホウトウが絡んで、なかなか美味い。

我が家でホウトウを食べるようになったのは、ここ十年のことだ。
栃木方面に桜見物に出かけて、其処で食べたのが最初だったと思う。
ホウトウは東京の店でも簡単に手に入るので、年に何回か食卓に上るようになった。

ヒッツミも出来合いがあればいいのだけれど、薄い素材を保存するのは難しいんだろうな。
あれはやっぱり盛岡の味、おふくろの味なのだ。